untitled #594

PIXII + RICOH GR 28mm F2.8
2020.07 / Kashiwa

TwitterやFacebook等のSNSにも書いたとおり、先日発売となった「PIXII Camera A1112」というレンジファインダーカメラを購入しました。会社名もそのままPIXII。フランスのベンチャー企業です(pixii.fr)。

PIXIIがどういったカメラかというと、APS-Cフォーマットの12MPのCMOSセンサーを採用し、Mマウントとレンジファインダーを載せたカメラということになりますが、なんとこのカメラのセンサーにはグローバルシャッターが搭載されています。そのためメカシャッターは省略。電子シャッターのみですが、全画素同時露光可能なグローバルシャッターですから、車窓に映る電柱もスイング中のゴルフクラブも歪みません。またメカシャッターがないことでバックフォーカスは最大限確保されており、Hologon 16/8やSuper-Angulon 21/3.4、Elmarit 28/2.8 1st等の後玉が極端に突出したレンズも問題なく装着できるようになっています。このセンサー、一般的なCMOSセンサーとひと桁異なるプライスで、現時点でフルサイズセンサーを採用できなかったのは、おそらくコストの問題だと推察します。

話が逸れましたが、PIXIIは特殊なセンサーを採用することでカメラとしてメカ駆動を廃すなど合理的な設計となっており、他にも背面のディスプレイが省略され、撮影画像の確認にはカメラとBluetooth/WiFiで接続したスマートフォンから行うなど割り切った仕様となっています。撮った写真を確認できないデジタルカメラというだけならば、LEICA M10-Dに似ているというだけですが、PIXIIのコネクティビティは今のデジタルカメラと比べても一歩先を行っており、カメラの電源が入っているときはスマートフォンと常時接続し、撮影後に画像データを自動転送するだけではなく、カメラの一部設定をスマートフォンから行たったり、将来的にはOTA(Over The Air)でカメラのアップデートが行なえるなど、設計思想そのものが既存のカメラと異なるものとなっています。

そういったコンピューター的な設計でつくられた新しい時代のカメラに、古典的なレンジファインダーという光学式ファインダーを敢えて組み合わせたところがこのカメラの面白いところ。マウントは前述の通りライカMマウント互換、M10同様にLEDで表示されるフレームは28/35/40/50mmとなっており、パララックスの自動補正にも対応するなどレンジファインダーカメラとして必要な機能は確保されています。私としては、この時代にコストのかかるファインダーブロックを新規で開発したということだけでも称賛に値すべきものだと思っています。

高コストなファインダーとセンサーを組み合わせたことで、カメラとしてのプライスはAPS-Cセンサーを採用するカメラとしてもトップクラス。メカシャッターや背面ディスプレイが省略されているコストダウン効果なんてありません。とはいえライカと比べればずいぶんリーズナブル。では、このカメラが同じマウントのM型ライカと比較すべきものか?といえば、そんなことはありません。さすがに高級カメラを長く作ってきたライカと比べてしまえば、PIXIIの高級感は乏しく、シンプルな設計のM型ライカと比べても機能的に見劣りします。要するに「ライカより買いやすい価格帯の互換機」として見たらがっかりするよ、ということです。だからといって、PIXIIに存在価値がないかといえば、そんなことはありません。昔、絞り優先AEをライカに先駆け採用したKonica Hexer RFが出てきた時に、その姿にまだ見ぬLEICA M7を重ねたように、PIXIIの姿はM型ライカの進むべき未来を先取りしたような面白さがあります。それを誰よりも早く体験できる、それこそがPIXIIというカメラの最も大きな価値ではないかと思います。

PIXIIの対応するISO感度は320/640/1280/2560のみ。フォーマットはJPEGまたはDNG。多くのカメラが備えるRAW+JPEGはありません(ただしモノクロはDNGもちゃんとモノクロ)。カラーとモノクロの切り替えはスマートフォンからのみ切り替え可能。しかもISO 320でもシャドウ部は結構なノイズが載り、ダイナミックレンジも広くはありません。最近の優秀なデジタルカメラと比べるとCCDセンサー時代の初期のデジタルカメラを彷彿とさせるピーキーさ持っており、使いこなすには相応の技量と忍耐力が求められる気がします。また距離計の基線長がM型ライカと比べて短いこともあり、多くのレンズでスリット型のフードを装着すると距離計窓が隠れてしまい測距不能になるなど制約も結構あります。足りないところがたくさんあるカメラですが、でも使っているととても楽しい。自分の操作や感覚よりも先を行っているカメラに存在する「不自由さ」というのは、ストレスではなく「楽しい」というメーターが振れるんですよね。荒削りな分、使う側がうまく合わせていかなくてはならないところもありますが、世界中でもまだ限られた人しか手にしていないという興奮とあわせて他のカメラにはない高揚感を生んでくれます。

まだ「試写している」という感覚で使っている状態ではありますが、今後より使い込んでこのブログでも写真やテキストを紹介していければと思っています。